そんな日々を繰り返していたある日のこと。
今日もパンを3つ紙袋に詰めながら、琴葉が訊ねた。

「パン屋の私が言うのもなんですが、毎日パンで大丈夫ですか?」

「え?」

「いや、あの、毎日来てもらって何だか申し訳ないです。」

紙袋を手渡しながら、琴葉は首をすくめた。

「迷惑?」

「いえ、全然!むしろ大歓迎なんですが、ちょっと心配になっちゃって。」

雄大の言葉に、琴葉は全力で否定の意味の手を振る。
何だか気まずくなってしまって、琴葉は目を伏せた。

「そういう南部さんはどうなの?売れ残ったパンを食べてるんじゃないの?」

「…食べてますよ?だからたまにはお米も食べたくなります。」

毎日の傾向から調整しながらパンを焼いているが、毎日完売とはいかずどうしても少し売れ残ってしまう。
廃棄なんてもったいなくてできないし、かといってお裾分けするような人もおらず、結局は琴葉自身が食べることになる。
雄大を心配しておきながら、自分もパンばかりたべているのだ。

「そっか、じゃあ今度寿司でも食べに行こうよ。」

雄大の提案に、琴葉はしばし固まった。
一瞬言われた意味がわからなかったのだ。

「えっ!?早瀬さんとですか?」

「俺とじゃ嫌?」

「いえ、そういう意味ではなくて。えっと、何ていうか、男の人と二人でご飯を食べに行く経験がなくてですね、ど、どうしたものかと思いまして。」

語尾がフェイドアウトしそうなくらいゴニョゴニョとなりながら、琴葉は顔を赤らめた。