「ティッシュ持ってないから、自分で拭けよ」

「口の端って、どっち?」

 首を傾げる仕草が可愛らしくて、ドキドキを隠すのに必死になる。

「み、右側」

 アイツは鞄からポケットティッシュを取り出し、指摘されたところを拭う。

「うわぁ、余計に広がってるぞ」

「嘘!?」

「しょうがないな」

 右手を差し出すと、新しいティッシュが静かに置かれた。意を決して、大好きなアイツと向かい合う。

 注がれる視線を意識しないように、顎の辺りを見つめた。右手の指先で持ったティッシュを使って、唇と頬に優しく触れる。

 柔らかそうな肌をどうにも傷付けそうで、自分のように手荒に扱うことはできない。それでも早めに対処したお蔭か、無事にケチャップを落とせた。

「まったく。子どもじゃないんだし、少しは気をつけろよ」