渉side

そう言って俺は話し始める。あの日の話を。

嘘か誠か。それは君の判断次第だが。

「まあ理由はさ、俺の親がしょっちゅう喧嘩してる夫婦でさ。先月とうとう離婚してさ。本当は母親と過ごして転校しないはずだったんだけど急に亡くなってさ。なんかの心臓病で。」

そう言ったとたん。彼方の顔から血の気が引く。そんな彼方の様子にも気づいてないふりして話し続ける。

「父親はどこに行ったかわからないし、頼れる親戚もいなかったから俺はばーちゃん家のあるここに預けられたってだけだよ。」

「……なんか、ごめん。何も知らないのに俺……」

「いいって!実際俺そんなに気にしてないし。むしろここにこれてラッキーって感じだし?」

彼方はこてっと右に首を傾げる。何を言ってるか分からない。それを俺に伝えるように。

「だってもし母親と転校してたり、頼れる親戚がいたら俺はお前とは会えなかったろ?」

そう言ってやっても彼方は不思議そうな顔をしている。そして下を向くと

「意味わかんないよ…」

って、ぼそっと呟いた。多分本人は独り言のつもりだったのだろうが。今の俺にはよく聞こえた。

俺は特別耳がいいわけでも目がいい訳でもない。でもなぜか彼方の声は俺の耳にしっかりと届いた。

でも俺は彼方の独り言には返事なんかしない。だってなんて返せばいいのかわからないから。

「お前に会えてよかった」この気持ちの意味はお互い違う解釈だから。

--渉side end--