きっと昨日、様子がおかしかった理由が語られるのだろう。
「昨日、貴斗が辞めるって言ったんだ。」
貴斗...それはずっと類と野球をつづけてきた子。
「受験のために辞めんだ、アイツ。」
私と類はカウンターをはさんで話す。
類の目はいたって真剣。
「もう俺も中2、もう数ヶ月で中3だ。
受験っていうのも考えなきゃいけない。
家も余裕があるわけないし、高校に入ればもっと金額がかかる。
心菜も中学生になるし、俺ばかりがワガママ言ってられない。
今からでも勉強してどこかの特待生になるか、公立高校に入りたいんだ。
だから、俺、野球辞めようと思う。」
類の目はいつになく真剣で私の目を見てくる。
きっと昨日今日でよく考えた結果なんだろう。
「じゃあさ、類はもし家計に余裕があったら。
私が普通の私立の生徒だったらどう?
周りと同じようにできるだけやりたいことを続けながら塾に行って、野球の強豪校に進学できるような家庭だったらどうする?
今、野球をやめて受験勉強する?」
私が類にそう問いかけると類は唇を噛んで黙ってしまった。



