握ったままの手に力が込められて、なかなか放しては貰えなかった。


「……小牧さん?」


「僕がいらなくなったら、この手を叩いてでも離れてくださいね」


「……」


「好きな女の、恋路を妨げることだけは絶対に、したくない」


優しい。
無理矢理に奪う選択肢だってあるというのに。
小牧さんは自ら引く道を選ぶというのかな。

優しいけど、哀しい道だ。


「僕は僕の"恋"より、君の"恋"を応援する」



力強く、そして優しい言葉が胸に染み渡る。



「約束だ」


繋がれた手ーー私の人差し指の付け根あたりに、小牧さんの唇が触れる。


まるで騎士が姫に忠誠を誓うかのような、口づけだった。


「恥ずかしいです…」


「僕も、恥ずかしいよ」


顔を見合わせて笑い合う。







2人の始まりの日に交わした"約束"ーーその約束が果たされる日がくることを、私はまだ知らない。