「そうやって付き合って、小牧さんにどんな得があるのです?」


「得?本気の恋愛に損も得も無いですよね。短い時間でも好きな人と一緒に笑えたら、それって結構、幸せなことだと僕は思うんです」



「……」


分かる。

オフィスでの"おはようございます"や"お疲れ様"の何気ない挨拶。

仕事の延長線上の話や、どこにもある天気の話。

それらを数秒でも、星崎課長と共有できたのならーー良い日だったと思えてしまう。


恋心ほど、単純なものはないだろう。



「その相手が私でいいのですか?」


「残念ながら、前山さんじゃないとダメなんです」


小牧さんが微笑む。


今までモテたことなんて一度もなかった。
過去の恋愛も全て私から告白したことがきっかけで、相手から好意を一方的に寄せられたことは初めてだ。


だから戸惑う。


でも、

彼の気持ちに応えたいと、思った。


片思いの辛さを知っているから?



「…私は私の好きな人を忘れられません。それでも良いと言うのならーー」


「無理して忘れる必要なんてないよ」


その返事に、心がスッと軽くなった。


私は星崎課長を好きなままで居ていいんだ。