時間を置いて立ち上がる。
とにかく寒い。
電車に乗ってしまえば暖かいけれど、どこかカフェで一息つくのもありかもしれない。
そんなことを考えていると、
「なにしてるんですか」
少し離れたところから、声がした。
「小牧さん!?」
「そこで誰か待っているんですか?」
「あ、いえ。もう帰ります」
「早く帰ってください。風邪引きますよ」
「はい…」
忘れ物だろうか。
しかし小牧さんは会社には戻らず、私と歩き出した。
「小牧さんはどうして?会社に用が?」
「ベンチに座るあなたが見えたから、引き返してきたんです」
「わざわざですか?」
「……」
それには答えず、小牧さんは鋭い目で私を見た。
ん?
「ちょっと失礼します」
コートのポケットから手を出した小牧さんは、そっと私の右手をとった。
温もりが、心地よい。
「…冷たいですね。とっても。なにしてたんですか」
すぐに離れた手に寂しさを感じながら、笑って誤魔化す。
「なんでもないです」
「星崎課長ですか?待つなら、中で待てばいいでしょう」
「違います。課長を待っていたわけではないです」
「じゃぁなんですか?」
少し強めの声に、
"小牧さんを待っていました"とは、言いにくかった。


