「ーーーイーディス嬢の事、大事にしているのですね」

柔らかな声にグレースの気遣いを感じたのだろう。視線を上げたカーライル子爵は苦く笑った。

「多分、実の兄と同じ感情なのだと思う。とても大切でどうしても幸せになって欲しいと願いながら、女性として愛する事は出来ないんだ。実際、数年前にレディング伯爵から縁談を打診された時も考えられなかった。まぁその時断った罪悪感もあって、今必死になっているんだけどね」

「そうでしたか……」

大切だけど、妹としてしか愛せない。それはグレースにも分かる感情だ。だってグレースもヴェネディクトの事を……。そこまで考えて「あれ?」と首を捻った。

ヴェネディクトが嘘とはいえ婚約者になった時、グレースはそんな理由で「無理だ」と思っただろうか?ヴェネディクトを不幸にしたくない、犠牲にしたくないとは考えたが、弟としか見れないとは思わなかった。

いやでも「年下の幼馴染」とは思っている。だけどここに来てから見た新しい側面に「見知らぬ男性のようだ」とドキドキはした。