「はぁっ!?」

淑女らしからぬ大きな声は出さないと誓ったばかりだと言うのに、グレースはここ最近で一番の大声を出してしまった。

「いやだな、グレース嬢。驚き過ぎではないですか?」

「いや、だって、でも、あの……」

どこがどうしてどうなったら求婚される事になったのかさっぱり理解出来ない。あわあわと意味のない言葉を繰り返すグレースを笑顔で見ていたカーライル子爵は「落ち着きましょうか」とグレースにお茶を勧めてくれる。

東屋に案内した時に執事が持ってきてくれた紅茶はすっかり冷めてしまっていたけれど、香り良い紅茶の一口でほんの少しだけ落ち着く事が出来た。

「では貴女が知りたがっている事を説明しましょうか。ああ、でもその前に。私の事はこれからジャックと呼んで下さい。私も貴女をグレースと呼びますから。良いですね?」

「良いですね?」と言われても正直、よろしくない。親しくもない男性とファーストネームで敬称も付けずに呼び合うなど、誰かに余計な誤解を招きかねない軽率さだ。