「ダメかね?」

「あ、はい。あの、婚約者を連れて行くっていうのはイーディス嬢に失礼になるんじゃないかなって……」

「グレースが嫌なら婚約の事は言わなくてもいい。まだ儂と君らの両親しか知らない話だしな。まぁ、わざわざ女性を連れて行く時点で相手も気付くだろう」

最後の言葉はヴェネディクトに向かってニヤリとした笑みと共に発せられた。言われたヴェネディクトも僅かに口角をあげる。

「ご明察です、公爵。グレースの存在を周知させる一歩でもありますがね」

「で、でも!」

グレースが行けばイーディス嬢が傷付くのは確実だ。偽の婚約のせいでこれ以上誰かを傷付けるのは避けたい。そう伝えようとした時、ヴェネディクトがこちらに向かって優しく微笑んだ。先程グランサム公爵に向けたのとは全く違う笑みだ。