「グレースに肝心な家の名前を伝え忘れてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

緊迫した空気に気付いていないかのようににっこりと満面の笑みを浮かべたヴェネディクトに継母さえもいつの間にか微かに口角が上がっている。
美形の笑みにはこんな威力まであるのか、とグレースが心の中で驚愕している間にヴェネディクトはどんどん話を進めていく。その様子はまるで腕利きの詐欺師のようだ。

「今回お世話になるのはグランサム公爵家です。国でも一、二を争うと言われる程の歴史を持つ名門ですからシーモア伯ご夫妻もご存知だとは思いますが」

「グランサム公爵ですって!?そんな名家とゴドウィル伯爵家が親戚だったなんてお話、聞いた事もありませんよ!」

「遠縁なのです。それに最近までほとんどお付き合いもなかったので、知っていらっしゃる方も多くはないのでしょう。元より我が家など、社交界の噂になるような家ではありませんから」

「そんなご謙遜を……ねぇ、旦那様」