グレースの知っているヴェネディクトはただの『中流貴族の次男坊』だった。確かに並外れて美しいが、年が若い事もあって恋愛相手ならまだしも、結婚相手としては見られる事は殆どなかったのだ。

しかしそれが『グランサム公爵の後継者』では話が変わってくる。事業も上手くいっているなら尚更だ。
金も名誉も美貌も兼ね備えた青年貴族は、多少歳が若くても問題にならないくらい理想的な結婚相手。親も娘もこぞって狙いを定めるだろう。

そうなると勿論、ヴェネディクトの一挙一動が話題になる。そして芋づる式にグレースとの婚約が社交界中に広まる。
そのスピードはきっと風より早いはずだ。それくらいは噂話に疎いグレースだって簡単に想像がつく。

そうなれば婚約を破棄するのも難しくなるだろう。名家の後継者になった途端、年上の幼馴染を捨てるなどヴェネディクトの醜聞になってしまうからだ。