そして哀れな姿を見送る事なく、グレースの手を握り歩き出した。

「まだ話したい事があるんだ」

グレースの手を引いてゆっくりと歩きながらヴェネディクトがポツリと呟いた。

「ええ。でも初めて聞いた事が多過ぎてちょっと頭の中がこんがらがって……これ以上聞いてもきちんと理解出来る自信がないわ」

グレースが情けなく眉尻をさげると、それを見たヴェネディクトの表情もみるみる曇っていく。

「じゃあ、ひとつだけ。グレースはカーライル子爵の求婚がダメになってがっかりしてる?」

「ーー求婚?そういえばそんな話もされたわね。そんな事よりヴェネディクトがグランサム公爵になるって……」

「じゃあ、ちっとも気にしてない?」

「ええ、ちっとも。カーライル子爵と結婚なんて考えた事もなかったし、ありえないもの」

「そっかぁ。ならいいや。僕の話はまた今度にするよ」

「え?そう、なの?まぁ、いいけれど……」

新しく与えられた情報がぐるぐる回っている頭では、ヴェネディクトからの質問の意味なんて考えられるわけもなくて。グレースの頭の中には「どうしよう」の言葉だけが浮かんでいた。