それからも、私達は仲の良いパートナーを演じ続けた。

以前と少しだけ変わったことは、彼が遠慮なく私の膝に頭を乗せるようになったことだろうか。

寂しさや人恋しさで唇を合わせることもあるが、肌を合わせたのは、あの夜が一度きりだった。




「つまらないパーティーね」


「あぁ、本当だ。他人の婚約披露パーティーほど馬鹿げたものはない」


「あなたは、婚約してもパーティーは開かないつもり?」


「あぁ、パーティーなんてのは時間と金の無駄だ」


「無駄ねぇ……それなのに、ここにいるのはなぜ?」


「顔つなぎさ」


「そう……ご苦労なことですこと」



ワルツに身を任せながら、私達は無粋な会話を交わしていた。

以前は彼が厳選したパーティーのみ出かけていたのに、いまは選ることなく方々へ足を運ぶ毎日だ。

特にこの2ヶ月ほど、彼の言うところの 『馬鹿げたパーティー』 に足しげく通うのが不思議だった。

そのつまらないパーティーで、利樹はいろんな人と会話を交わす、それも、横に必ず私を置いて。

聞きもしないのに、この人と誰が繋がりがあり、誰と誰が仲が良く、あの会社の常務と誰が同窓だと教え、会社間の繋がりや銀行の融資先、流通の形態などといったことを事細かく説明した。

彼が語るのは私には関係のない業界の情報ばかりだったが、繰り返し聞かされるうちに、いつの間にか頭に入っていた。

それらの情報が、その後、どれほど私の助けになったことか。

そのときは、まだ知る由もなかった。



それは突然の解雇通告だった。

利樹と出会って一年近くたっており、最初の約束の期限はとっくにすぎて、もしかしてこのまま契約解除はないのではと思い始めた矢先だった。

長い間ありがとう、来月から元の部署に戻れる手はずになっているからと、食事のあと利樹はデザートを口にしながら私に告げた。



「私はお役御免かしら? もっと良い人が見つかったの?」



嫌味のひとつも言いたくなるほど、あっさりした物言いに腹が立った。

初めから別れがくることはわかっていたのに、こうまで平然と言われると怒りがわいてきた。

イラつきながらデザートナイフを握る私の前に、彼はメモを差し出した。

そこには、聞いたことのない会社名と地図が書かれていた。



「彼の居場所だ。そろそろ迎えに行ってもいい時期だと思う」


「彼って……利樹さん、知ってたの……」


「君の身辺を調べたときから彼の存在はわかっていた。この頃、君のため息が多くなったからね……」



寛人の父親から、寛人らしい人物を見かけたと聞いた。

父親の姿を見て逃げるように走り去ったということだった。

黙って家を出た手前、帰るに帰れないのではないか、亜矢ちゃんにも連絡はないかと先日相談されたばかりで、忘れかけた男の心配をしながら私はため息をついていたらしい。

メモ用紙に落とした視線を戻し、利樹の顔を見つめた。

出会ったころと同じように表情を隠した顔は、何も聞くなと言っていた。