ずっと黙ったままで、会話に入ってこなかった、窪田くんが。というよりは。
 ミーティング時に口を開いたことなんてなかった。ただ静かにその場に佇むだけだった毒舌王子が。
「たいした腕じゃないのに他人に上から目線なのって。ただ料理下手なこと以上に。救えないです」
 ――牙を剥いた。

「なっ……」
 言葉を失い、顔を赤くさせる2年女子に、窪田くんは問答無用で続けた。
「俺からしたら。ここの部員、たいしたことないです」
 途端に空気が凍りつく。
「普段はお遊びだからそれでいいと思いますが。学祭ってなると。金と引き換えで渡す、売り物になるわけですよね。そのレベルに達してるのは俺だけです」
 2年のうち、1人が、泣き出してしまった。

 それから3年中心に意見を出し合い、一段落ついて、解散したあと。

 部室に最後まで残っていたのは、わたしと、
 それから――
「帰らないの?」
 窪田くんだった。

「どうして言われっぱなしなんですか」
 …………!!
「俺は。俺だったらあんなの耐えられません」
 わたしだって。
 わたしだって、言われてすごくいやだったよ。

「ありがとう。かばってくれて」
 いや、違うか。
 窪田くんは、2年に意見しただけでわたしを守ったとか。そういうつもりだったとは限らない。
「でもね。たいしたことなくなんて、ないんだよ」
 
「ここの部員のレベル低いのは事実ですよね」
 肩をすくめる、窪田くん。
「そりゃあ、プロには敵わないし。窪田くんから見たらそうかもしれないけど。わたしは、みんなの作る料理、好きだな」
 すると、窪田くんは、俯いてこう言った。
「自分が言われてるより腹が立ちました」
「……え」
「ひなたセンパイの料理は。まあ。ゴミですが」
 待って。いちばんヒドいのは窪田くんだな!?
「それでも」
 顔を上げ、まっすぐに目を見て
「男に売り込むとかやめてくださいよ」
 切なげな表情でそんなことを言われてしまった。

「……窪田、くん?」
「阻止します」
「へ、」
「媚びないでください」
「えぇ!?」
「当日は俺がサポートしますから。一緒にクレープ。作りませんか」
「…………」
「先輩の最後の学祭。いい思い出にしましょう」