しかし、その全てを裏切るような
出来事はある日突然起きる。


ここからはある極端な例の話だ。


私はその日、部署配属前の最後の研修を受けていた。


その研修はグループになって行うもので、
チームワークが重要となる。


そこに、突如"彼"は現れた。


サイドを刈り上げた威圧感漂う髪型。
立ち振舞いも外見も、まさにヤンキーそのもの。
筋肉ががっしりついた体とくれば、
バリバリの体育会系であると言わざるを得ない。


そんな彼がリーダーになり、
研修は幕を開けることになる。


結論から言うと、もうズタボロだった。


そう、私の精神が。


そそっかしい私はチームワークというのが苦手で、
幾度となく失敗を繰り返してしまった。


今思えば配属前だったし、
きっと誰もかれもが心に余裕を持てなかったのだろう。


そして、彼は私にキレたのだ。


「意味わかんねーよ」
「普通に考えれば分かるでしょ」


ただでさえ怖い風貌なのに、
キレられた時のあの恐怖と言ったらない。


終いには、「ああああああああ頭いてええー」と
あからさまな態度で嫌味を言ってくる始末。


とにかく、申し訳ないという気持ちもあり、
私はひどく落ち込み、
ほぼ半泣きの状態で研修をやっていた。
最終日は昼休みにトイレにこもって泣いていたぐらいだ。


まさに、彼は人を泣かせる天才と言えよう。


あれは今の会社に入って5本指に入るほどの
トラウマ級の思い出となった。


思い出すだけでも泣きたくなるくらいだ。


そして、最後のとどめは
彼と同じ部署に配属が決まる。


絶望以外に言い表す言葉がない。
私はそれから彼をずっと嫌悪していた。


配属されて、最初の1週間。
安全教育を受け、作業の練習をしているときも、
私はずっと重苦しい気持ちを引きずっていた。


そんな私をよそに、彼はスタッフの女性と
楽しそうに談笑している。


やんちゃで明るくて、器用で何でもできて
顔立ちも整っているときたもんだ。
そんな人間が、ちやほやされないはずがない。


5日間、彼がスタッフの女性にちやほやされるのを
呆然と眺めるしかない胸糞悪さは、
筆舌に尽くしがたいものだった。


だから、私は彼はある意味
素晴らしいことを教えてくれた偉人だと考えている。


こうして「社会の理不尽さ」とやらを
身を呈してまざまざと私に見せつけてくれたのだから。