「うん、日向君。今回はあまりやらかさずに帰って来てくれたね」
 「先生、俺いつも何にもやらかしてないっすよ!」
 
 不服そうな日向くんをよそに、先生と呼ばれた白衣の青年は微笑んだ。女の人みたいな顔の造りをしていて、肌が透き通っている。二十くらいの見た目だけれど、職業的にももっと年上なのだろうか。
 
 「日向君は……いつも酷いんだよ。ついこの間も左肩を脱臼して帰ってきたもんね。ぼくの仕事を沢山作ってくれる」
 
 皮肉とも嫌味ともとれる言葉を漏らしながらも、先生は笑顔のまま日向くんのかすり傷を容赦なく消毒した。
 
 「いっっっ」
 「今回はほんと優秀だね。『急速回復』の必要がないなんて何ヶ月ぶりかな?」
 
 あまりやらかさずに、という言葉のわりには日向くんは包帯とガーゼまみれになっていた。治療室を出ようとすると声をかけられる。
 
 「ああ、せっかくのお客様だというのにお茶のひとつも出さないで申し訳なかった。今、紅茶を淹れるからね。君と話したいことが沢山ある。ぼくも、日向君も」
 
 私も聞きたいことが朝から沢山溜まっていた。聞けるかどうかは別として。そうして白を基調とした客間に通された私は、暖かい紅茶を口に含んだ。
 
 「さて、何から話そうか。まずは自己紹介かな?」