とにかく日向くんの足を引っ張らないようにしなくてはいけない。半袖のカッターシャツから伸びるガーゼまみれの痛々しい腕をみて、私はそう心に決めた。
「では行くぞ」
「――ああ」
次の瞬間、葵くんが私の目の前に現れた。私の首には細い指がかけられている。状況を飲み込めない私の喉に人差し指を立てて、葵くんは勝利宣言をした。
「……これで、能力を読む能力、時空系の能力の線は潰されたというわけだが」
「ごめんちえりー、能力は精一杯出してたんだけどさあ」
両手を合わせて日向くんは葵くんの背後から顔を出した。となると、葵くんは日向くんの能力を何らかの形で潰せる能力なのだろう。毎戦闘で無傷で帰ってこられる能力。
模擬戦を開いているのだ、まず能力を読むような能力ではない。さっきの状況から鑑みるに――瞬間移動のような……日向くんが能力を使う前に私の前に移動した?
いや、日向くんは『能力を精一杯出した』と言っている。加速にせよ加熱にせよ――何か起こっていないとおかしい。ところが何も起こっていないということは、能力自体をキャンセルするような能力か?となるとこんどは私の目の前に現れるための能力としての説明ができなくなる。ああ、あるいは――
「驚かせてしまったか。すまない。日向も言っていたように、僕は手加減が出来ない質でね」
思考を巡らせていると、葵くんの大きくも切れ長の瞳がこちらを心配そうに見ていた。首にかけられていた手は私の肩に乗せられている。つんけんとしているが、根は優しいんだろうなと感じる。さすがヒーローだ。
「あ、あの、葵くん……の、能力とか、って」
「相手の戦力、戦法を判断する訓練をするのも模擬戦の目的の一つだ」
葵くんは微かに微笑んだ。終わるまで能力は教えない、ということだ。こちらを見据えたままの薄い顔立ちはまだ幼くて、うっすらと赤みがさす白い頬は柔らかそうだった。だめだ、可愛い。私は異性に対する免疫が無さすぎる。自然と心拍数が上がっていた。
「さて、二回戦とするか。ただし、僕はもう積極的にちえりを狙わない――」
さらさらの黒い髪を揺らして、葵くんは振り返る。
「俺とやり合うってことだろ」
「そうだ。ただし、手加減も……遠慮もしない」
日向くんが対岸へと跳び渡る。遠慮はしない、というのは、今度は寸止めではなく攻撃を当てるという意味だろうか。既に傷だらけの日向くんの傷を私の能力当てに付き合わせて増やすのは可哀想だ。出来るだけ日向くんが傷を負わないようにしてあげたいが、どうすれば自分の能力が使えるのかすらもよく分かっていない。まずは葵くんの能力を確定させるしかないだろう。
「さあ行くぞ」
「……来いよ」
「では行くぞ」
「――ああ」
次の瞬間、葵くんが私の目の前に現れた。私の首には細い指がかけられている。状況を飲み込めない私の喉に人差し指を立てて、葵くんは勝利宣言をした。
「……これで、能力を読む能力、時空系の能力の線は潰されたというわけだが」
「ごめんちえりー、能力は精一杯出してたんだけどさあ」
両手を合わせて日向くんは葵くんの背後から顔を出した。となると、葵くんは日向くんの能力を何らかの形で潰せる能力なのだろう。毎戦闘で無傷で帰ってこられる能力。
模擬戦を開いているのだ、まず能力を読むような能力ではない。さっきの状況から鑑みるに――瞬間移動のような……日向くんが能力を使う前に私の前に移動した?
いや、日向くんは『能力を精一杯出した』と言っている。加速にせよ加熱にせよ――何か起こっていないとおかしい。ところが何も起こっていないということは、能力自体をキャンセルするような能力か?となるとこんどは私の目の前に現れるための能力としての説明ができなくなる。ああ、あるいは――
「驚かせてしまったか。すまない。日向も言っていたように、僕は手加減が出来ない質でね」
思考を巡らせていると、葵くんの大きくも切れ長の瞳がこちらを心配そうに見ていた。首にかけられていた手は私の肩に乗せられている。つんけんとしているが、根は優しいんだろうなと感じる。さすがヒーローだ。
「あ、あの、葵くん……の、能力とか、って」
「相手の戦力、戦法を判断する訓練をするのも模擬戦の目的の一つだ」
葵くんは微かに微笑んだ。終わるまで能力は教えない、ということだ。こちらを見据えたままの薄い顔立ちはまだ幼くて、うっすらと赤みがさす白い頬は柔らかそうだった。だめだ、可愛い。私は異性に対する免疫が無さすぎる。自然と心拍数が上がっていた。
「さて、二回戦とするか。ただし、僕はもう積極的にちえりを狙わない――」
さらさらの黒い髪を揺らして、葵くんは振り返る。
「俺とやり合うってことだろ」
「そうだ。ただし、手加減も……遠慮もしない」
日向くんが対岸へと跳び渡る。遠慮はしない、というのは、今度は寸止めではなく攻撃を当てるという意味だろうか。既に傷だらけの日向くんの傷を私の能力当てに付き合わせて増やすのは可哀想だ。出来るだけ日向くんが傷を負わないようにしてあげたいが、どうすれば自分の能力が使えるのかすらもよく分かっていない。まずは葵くんの能力を確定させるしかないだろう。
「さあ行くぞ」
「……来いよ」
