ヴァンパイアRose

「本当ですかお母様!?



…はい、いや、少し…。わかりました。」



クロウさんの声がする。



私が顔を上げると時計の針は10時を指していた。



きっと私は晩御飯も食べずに寝てしまっていたのだろう。



しまった_



というか、さっきのクロウさんの声、焦っていたように聞こえた。



部屋の外でカタンとあちこちから物音がなる。



私は気になってそっとドアを開ける。



そこには慌てているクロウさんがいた。



「あの、どうかしたんですか?」



私はこんな時間にどうしたのだろうと気になって尋ねる。



「実は…。



いや、なんでもない。」



話そうとしたのをやめ、階段を下りようとする。



そんな中途半端じゃきになるよ!



私は慌てて追いかける。



「ま、待ってください!」



「っ!?



なんでついてくるんだ。」



「だ、だって…気になりますから…。」



私はしどろもどろに言う。



お節介なのはわかってる。



でも…



なんとなく、クロウさんを今一人にしちゃいけない。



そんな気がした。



「はぁ、わかったよ。



いま、お母様から連絡が来て、クロエが行方不明に…。」



「クロエちゃんが!?



そんな…」



「だから、心当たりのある場所を探しに行こうとしてるんだよ。」



「私も探します!」



「時間が遅いんだし危ないだけだ」



クロウさんは私を置いていくつもりでいる。



でも、クロエちゃんは大切な友達だ。



クロウさんも、もちろん大切だ。



「目の前で困ってる人、放っておけません!」



「…お前…」



「お節介だってことは分かっています、私がいで、邪魔なだけだってことも…。



でも、でも…それでも、なんと言われようと私はついていきますらね!」



「…わかったよ」



クロウさんは呆れたように頷く。



そして私たちはとにかく走った。



森の中から、公園、デパートの周り、あちこちを見て回った。



私はもちろん体力がない。



でも、そのせいでまた足を引っ張るなんて、嫌だ。



息を切らしながらも捜す。



「クロエちゃーん!」



「クロエっ!」



でも、見つかる気配はない。



周りはシーンとしている。



このままじゃダメだ。



「クロウさん、手分けして捜しましょう!



そっちの方が効率もいいと思います。」



「だが、そうしたらお前が危ないんじゃ…



でも、クロエも見つけないと…



俺は、俺は…」



クロエちゃんを失ってだいぶ動揺しているようだ。



「お、落ち着いてください」



「お、俺は…俺があんなこと言ったせいで…もっと優しく言えばよかったのに…俺のせいで…



俺は、どうすれば…」



クロウさん…。



普段のクロウさんとはかけ離れている。



でも、やっぱりそれだけクロエちゃんのことを思っていた、ということだ。



「クロウさんにとって、クロエちゃんは大切な存在なんですね。



なら、私にとっても大切です。」



私はほぼ無意識にクロウさんを抱きしめていた。



「大丈夫です、必ず見つけれます、見つけ出してみせます。」



こんな兄妹…いいな、なんて思ってしまう。



お互いに思い合って、大切にし合っている。



私は、クロウさんの役に立ちたい。



「樹里…」



初めて、名前を呼んでくれた。



心が温かくなる。



ただ名前を呼んでくれただけなのに。



「落ち着き、ましたか?」



「あぁ、ありがとう。」



そう言って、クロウさんは吹っ切れたように笑顔だった。



ドキンッ



反則です…。



勝手にそんな風に思ってしまう。



「なら、捜しにいきましょう!こっちは私が捜すんで、あっちをお願いします。」



「あぁ。」



そう言って私たちは再び走り出した。



「クロエちゃん、クロエちゃーんっ!」



私は周りを見てひたすら走る。



見つけ出すと言ったからにはちゃんと見つけないと!



「うぅ…ひっく…」



どこかで泣き声が聞こえる。



もしかして…。



私は声のする方へ向かって走っていく。



「クロエちゃん?」



木々を避けるように進み、葉をどけると、そこにはうずくまっている少女がいた。



クロエちゃんだ。



「クロエちゃん!」



私の声に気付いたのか、顔を上げる。



「樹里さん?」



「クロエちゃん、よかった…」



私はクロエちゃんの元へ駆け寄る。



「クロウさんが心配してましたよ。



ほら、帰りましょう。」



「いや、ですの…。」



「どうして?」



「だって…だって…」



また泣き出しそうに顔をくしゃっとする。



「クロウさん、クロエちゃんのことをすごく思ってるよ。



さっきだって、すごく動揺しちゃってたし…。」



「お兄様…が?」



クロエちゃんは信じられないと言っている。



「私もそう思ったよ。



でも、クロウさんは本当にクロエちゃんを大切にしている。



今日の夕方ね、クロウさんのクロエちゃんへの思い…聞かせてもらったの。」



私は馬車の中で話していたクロウさんの言葉一つ一つを思い出しながらクロエちゃんに伝える。



「お兄様…」



そう言ってポロリと涙がこぼれ落ちる。



「だから、戻っていってあげて。」



「樹里さん…、ありがとうですの。」



「私は少し疲れちゃったから休憩してから行くよ。



お兄ちゃん、心配しているから早く顔を見せてあげて。」



私は笑顔を作り、クロエちゃんにそういう。



「はい、ですの!」



クロエちゃんはニコリと笑って走り出した。



つ、疲れた…でも、よかったな。



とは言っても、もう走ることは辛い。



これ以上は無理だな。



ふぁぁ〜



眠気も同時に襲ってくる。



こんなところで寝るわけにはいかないのに。



帰らなきゃ。



私はゆっくり立ち上がって歩き出す。



でも、どこを見ても木々ばかりで屋敷がどこにあるのか全くわからない、それに、どこから来たのかもわからない。



どうしよう、こんなことなら…一緒にいればよかった。



しまったと思ったけどもう遅い。



周りはもう暗い。大きな木のせいで月の光すら見えない。



暗い…。



怖い…。



私は怖くなってその場から逃げるように走る。



はぁ、はぁ、はぁ…。



どんどんペースが落ちていく。



「あっ…!?」



足元に落ちていた木の幹につまずく。



痛い…



視線を落としてみると膝を擦りむいてしまっていた。



どうしよう、もう走れない。



泣きたい…。



風で揺れる木々の音、フクロウの鳴き声、全てが怖く感じる。



怖い、怖い、怖い、怖い…。



暗闇の中で一人…。



真っ暗なのは苦手だ。



寝るときも最低でも豆電球だ。



なのに…ここには明かりなんてどこにもない。



「うぅ…」



つい泣いてしまう。



こんなことで泣くなんて子供みたいだ。



「だれか…、だれか…」



助けを呼ぼうにもろくに喋ることができない。



私は地面の土をぎゅっと握りしめる。



みんなのもとに、帰りたい…。



アレクさん、ナツメさん、カイラさん…クロウさんのところへ__



「…樹里っ!」



どこか遠くから、クロウさんの声がする。



クロエちゃんとはもう会えただろうか。



「樹里、返事をしろっっ!」



これは夢なのかな…。



私は力を振り絞って声を出した。



「く、クロウ…さんっ!」



バサッ



その瞬間クロウさんが一瞬で私の目の前に現れた。



「う、うぅ…うわぁぁぁぁんっっ」



私は嬉しくてつい泣き叫んでしまった。



思いっきり、泣きじゃくった。



「クロウさん、クロウさん、クロウさんっ」



私は何度も呼んだ。



「もう大丈夫だ、だから言ったのに…。



クロエとはちゃんと会えた、ありがとな。」



「よ、よかったです。」



私は起き上がる。



とは言っても立つことはできず、座り込む。



力が入らない。



クロウさんが来てくれただけで、胸がいっぱいだ。



「お前、足…」



私は擦りむいた足を見る。



真っ赤な血が下垂れ落ちている。



「あっ」



思っていたより多くの血が出ていた。



絆創膏や消毒は持ってないし…。



よく舐めておけばいいとか言うけど、結構広い範囲だし…。



「これくらい、気にしないでください」



私は心配かけまいと立ち上がろうとするが、やっぱり立つことは難しい。



ギリギリまではいけるが、最後の最後にチクリと足が痛む。



「うっ…」



私は再び座り込んでしまう。



「大人しくしていろ」



そう言ってクロウさんは膝をつく。



そして、私の膝をペロリと舐める。



え?!



そしてそのまま出て行く血を吸っていく。



でも、何故か自然に痛みが和らいでいく。



「これで、大丈夫だろう。」



そう言ってクロウさんが立ち上がった時にはもう、血は止まっていて、傷もだいぶ治っていた。



ど、どう言うこと…?



「…俺が…、ヴァンパイア だからだ。」



ヴァンパイア …



と言うことは吸血鬼。



クロウさんが…。



私はそのまま固まってしまう。



「そこから出ている血を吸うことで、傷を癒す力も持っているんだ。」



そ、そうなんだ…。



吸血鬼…。



私はそのことで頭がいっぱいだった。



「怖い…か?」



「い、いえ!



怖くはありません、ただ、驚いてしまって…」



これは本当だ。



怖いと言うより、驚きだ。



そもそもわけのわからない世界に来て、一緒に住んでる人が吸血鬼、ファンタジー??



私が固まったままでいるとクロウさんは私をサッと抱き抱えた。



“お姫様抱っこ”の状態だ。



「お、お、下ろしてくださいっ!



こんなの、恥ずかしい…です。」



「疲れてるだろう。



それに、人はいない。」



「で、でも、重いですよね…」



「たいして重くはない、今日のお礼と言うことにでもしておいてくれ。」



お、お礼…。



何にもないよりはそうしておいた方が私としても安心できる…かな。



私はそのまま屋敷へと送られた。