ヴァンパイアRose

私はその本を大切に抱えてアレクさんと並んで歩き出した。



「読むのが楽しみです!」



「そんなに期待すんなよ…。」



アレクさんはそう言って目をそらす。



すると



「アーーレーークゥーーー!!」



アレクさんに向かって目をギラギラさせて走ってくる少女。



この人…どこかで…。



私は必死に記憶の中を漁る。



…あっ、編集者のっっ!



「樹里、逃げるぞっ!」



そう言ってアレクさんは屋敷から出た時と同じように私の腕を掴む。



「ちょっと、待ちなさいよっっ!



やっと見つけたのに、逃すわけにはいかないんだからねっ!」



は、速い…



アレクさんの走るペースがものすごく速い。



運動不足だな、私。



そして後ろから追いかけてくる少女も同様速いっ!



「樹里、大丈夫か?!」



「う、うん…たぶん…」



とは言ったものの息はすでに上がっている。



「つっかまえた!!」



私が足を引っ張ってしまったようで、編集者さんに捕まってしまった。



「アレクさん、私のせいで申し訳ございません…」



「気にするな。



で、何の用だユリカ。」



「何の用だ、じゃないでしょ!!



わかってるくせに!新作よ、新作っっ!



原稿はまだなの?」



「そ、それは…いま製作中で…」



「へぇ〜、ならなぜデパートに?」



「息抜きだ。」



「もう、逃がさないわよ、アレク!」



そう言ってユリカと呼ばれた少女はアレクの腕に自分の腕を絡めて引っ張っていく。



「あっ…」



とっさに出たのはその一言だった。



「…ん?



あなた、誰?」



ユリカと呼ばれた少女は今気付いたかのように言う。



「あ、え、えっと…」



「アレク、この子誰?



ちゃんと説明しなさいよ!」



説明しろと言われても困るよね…



案の定アレクさんは黙り込む。



「必要なものを買いに…来ました…。」



私はそう言った。



「なら、一人で行けばいいじゃない。



なんで、アレクといるわけ?」



だいぶ気の強い子のようで、一言一言がはっきりしていて、少し怖い…。



というか苦手なタイプだ。



「その、来たばかりで…わからなくて…」



「はぁ…。もっとハッキリ喋れないわけ?



もういいわ、ほらアレク、行くわよ!!」



そのままアレクさんはずるずる引っ張られる。



「樹里、お前はそこで待ってろ!



迎えに誰か来させるから。」



最後にそう言い残して__。



とは言っても、ここで何して待ってろと…



私はふと視線を落とす。



本…。



私は近くのベンチに座り、本を広げる。



プロローグ…。



私は次々にページをめくっていく。



こんな理想の恋…できたらな…。



「おい。」



私が集中して読んでいると頭上から声がした。



「く、クロウ…さん?」



私が顔を上げるとクロウさんが目の前にいた。



もう迎えが来たようだ。



でも、クロウさんは女嫌いなわけで…。



「私なんかと一緒で大丈夫なんですか?」



つい口に出してしまった。



「どういうことだ?」



「あ、その…女嫌い…ですよね?」



「…。」



即座に返事をすると思ったら黙られる。



えっ?なんで答えないの?



「確かにそうだが、お前とは普通に話せるようでな、行くぞ。」



そう言ってさっさと歩き出す。



私は置いてかれないように慌てて本を閉じ、追いかける。



そして馬車に乗り込む。



ど、どうしよう…。



何も話すことがない。



このまま沈黙が続くのではないかと思ってしまう。



何か話さないと…。



「あの…朝は…。」



私が謝ろうとすると



「もういい。



俺も悪かったからな…。



クロエには俺なんかよりもいい奴を見つけて欲しい…。なのにクロエは…はぁ。」



そう言ってクロウさんはため息をつく。



やっぱりそうだったんだ。



「やっぱり、そうだと思ってました。



だってクロウさん、意外と優しいというか、妹さん思いというか…」



「よく言うよ。



でも、クロエはわかってない…。」



「クロウさんもですよ。



ちゃんと話し合ってみたらどうですか?



クロエちゃんにも、今の話を…。



言わないと伝わらないこともあります。



兄妹だから、何でも理解し合えるわけではないと思いますし…。って何偉そうに言ってるんでしょうね、私…」



ほんと、何言ってるんだろう。



私はあはははと笑ってごまかす。



まぁ、正直に伝えてもクロエちゃんは「お兄様ったらクロエのことをそんな風に思ってくれてるなんて…」とか言って喜びそう。



「言わないと、伝わらないことか…。



それもそうだな。」



クロウさんは少し嬉しそうに微笑んだ。



無表情で、口数が少ないクロウさんがこんな表情を見せるなんて…。



貴重だ!



私はつい笑ってしまった。







屋敷につき、私たちは馬車から降りる。



「アレクさん、大丈夫でしょうか?」



「大丈夫だろう。今まで逃げまくっていた罰だ。」



言われてみれば仕方がないとは思う。



「わざわざ迎えにきてくれて、ありがとうございました。」



私はクロウさんにそう伝えて自分の部屋に行く。










♚✞♚










「クロエ、今空いているか?…あぁ、話したいことがある。」



俺はクロエに連絡をした。



あいつの言った通りかもしれない。







クロエは即座に現れた。



「お兄様ぁぁ、お兄様から呼んでくださるなんて、クロエ嬉しいですぅ♡」



相変わらずぴょんぴょん飛び回っている。



「お前の、婚約の話だ。」



俺がそう言うとクロエは急に大人しくなる。



「俺がいいからって断るのは、もうやめてほしい。



お前には俺よりいいやつを見つけてほしい。」



「お兄様…、で、でも、クロエは…!」



「クロエにそう言ってもらえるのはすごく嬉しいが、お前に、俺は合わない。



だからと言って今すぐとは言わない。



俺なんかのせいでお前の人生を台無しにしたくないんだ。」



「…お兄様…。



もしかして、誰か心に決めた方が?」



トクンッ



心臓が跳ねる。



違う、そんなやつはいない…。



なのに、反応してしまう…。



わからない__。



「い、いない…」



クロエはクスリと笑って



「わかりましたわ、私はお兄様が幸せならそれに従いますの。



クロエも…運命の方に出会えると嬉しいです…」



そう言ってクロエは悲しそうに笑った。










♚✞♚









私…クロウさんに何言ってるんだろう。



恋愛なんて、なんにもわからないのに…。



馬鹿みたいだ。



コンコン



私が布団の上で横になっていると扉をノックする音が聞こえた。



私は立ち上がり、扉へ向かう。



扉を開けると、そこにはクロウさんがいた。



「クロウさん…?どうしたんですか?」



「伝えた。さっき、クロエに…」



「そんなんですね。



クロエちゃん、どうでしたか?」



「傷ついてるだろうな。」



……そっか、やっぱり。



クロエちゃんからしたら失恋のようなものだ。



いくら兄に自分を思ってと言われても大好きなんだもんね…。



「私が変なこと言ったから…。」



「お前は悪くない。



どうせ伝えるつもりだったしな。



俺としてはお前のおかげで伝えられたから感謝している。」



「クロウさん…」



そんな風に言ってもらえるなんて。



「やっぱり、クロエについては女のお前に聞いた方がいいな。



これからも、頼む。」



そう言ってクロウさんは背中を向ける。



「あのっ」



私はつい呼び止めてしまう。



特に話すことがあるわけじゃない。



なのに、なぜか…。



「い、いえ…ごめんなさい。」



そう言って私はパタンと扉を閉めた。



何を言おうとしていたのだろう。



そういえば、買った服…アレクさんが持ったままだよね…。



あんなにもたくさん持ってもらっちゃって申し訳ない…。










♚✞♚









「アレク、新作書けた?」



ユリカに捕まったままひたすら原稿と睨み合う。



新作はなんとなくはできているが、この後の展開が…



つい勢いで書いてしまった…。



「はぁ、書けたやつだけでも見せて!」



そう言ってユリカは俺の書き終わった原稿をかっさらう。



「どうだ?」



前半は自身がある。



「…なにこれ。



本当にアレクが書いたの?こんな…甘々の…」



「俺だよ!」



信じられないと言った顔で俺をみるユリカ。



「長年あんたの話を読んだりしてたけど、こんなの初めてだよ。いきなりどうしたの?」



「いや…別に…」



「も、も、もしかして…、一緒にいた女!?」



「違う!」



俺はつい叫んでしまった。



俺にもわからないが、今回はストーリーがどんどん浮かんできた。



「…ならいいけど。



じゃあ、小説のネタとしてってこと?」



ネタ…。



わからない、けど…。



「そんなところだ。」



そんな風に答えてしまった。



あいつをネタとしているわけではない、けどユリカの前では面倒なことを言われるだけだ。



それなら、そーゆーことにしといた方がいいだろう。



「ふぅ〜んっ!



今日のところはもういいわ。



ほら、さっさと帰りなさい。アレク様」



そう言ってユリカはニヤリと笑った。



「その呼び方はやめろっつってんだろ。」



「ふふっ」



俺は樹里の服を買った袋を持って出て行った。










♚✞♚









「ただいまー」



アレクさんが帰ってきたようだ。



私は部屋から飛び出して、階段を駆け下りる。



「おかえりなさい、アレクさん!



袋、持ちますよ!!」



「気にすんな、部屋まで持ってく。」



そう行ってアレクさんは階段を上っていく。



「ご、ごめんなさい…本当に、何から何まで…。



ところで、新作は大丈夫だったんですか?」



「あぁ、なんとかな…」



そう言ってアレクさんは荷物を降ろす。



「ありがとうございました。」



袋から服を取り出し、クローゼットにあるハンガーにかける。



嬉しい。



そんな風に思ってしまう。