第4章 後ろの後ろの人

正直、面白くない。

立花さんの後ろは、学年一のギャルグループのリーダー格、長谷川さん。
以前、ティーン誌の読者モデル欄に写真が載ってて、話題になってた。

そんな彼女が、まさか対極にいるような立花さんと親しいなんて、思いもしなくて。

前から回ってきたプリントを、後ろに座る立花さんに渡す時、わざと紙の真ん中を持ってみた。
あわよくば指が触れてくれるかなって。

でも、立花さんは手を一旦引っ込めて、紙の端をそっと摘む。

ハア、そんな上手くはいかないか。

こんな時でもないと授業中に立花さんの顔を見れないから、しっかり目に焼き付けるようにするんだ。

まあ立花さんはすぐに目をそらせて、プリントを後ろにいる長谷川さんに渡すために、体を反転させちゃうんだけど。

私も前に向こうとした時、甘ったるい声が耳に飛び込んできた。

「ありがと、奏」

え、呼び捨て?
何、それ?

もちろん立花さんが「奏」って呼ばれる事があるのは知ってる。
8割方は彼女の親友の古谷さんだけど、他にも部活で一緒だとか、去年クラスメートだった子達が、呼んでいるのを聞いた事がある。

でも、この感じ。
なんだろう。
胸がざわざわする。

前に向かうタイミングを逃して、思わず2人を見てしまう。

長谷川さんは、まだ授業中なのに、立花さんに話しかけてる。
しかも、あろうことか立花さんの手を愛でるように、人差し指でつうっと撫で上げた。

何、あの仕草。
立花さんを誘惑してるの?

ダメ、反応しないで。

立花さんは、私の願いが通じたようにクールに対応していて、ホッと胸を撫で下ろす。

素っ気なくされても気にもとめない風で、長谷川さんはさらに続ける。

「・・・ますますカッコ良くなっちゃうね」

自分の可愛さを熟知した、上目遣いのウィンク。
そこだけ、ハートマークが飛び交ってる。

まさか、彼女も立花さんの事、、、。

脳内パニックになってると、立花さんがクルッと体を向けたので、いきなり真っ正面に向き合ってしまう。

慌てて彼女に背を向けるように、体を前に戻した。
見てた事、気づかれちゃった。

あー、穴があったら入りたいって、まさにこんな状況だよね。

席替えして、まだたったの3日しか経ってないのに、私、こんなんで大丈夫かな。