「…もう帰っちゃうの…?」


あああ、そんなうるうるした瞳で私のこと見ないで!帰れなくなっちゃう!やめて!


泣きそうになりながら私の袖をちょんと掴むコウくんに、私の心はグラグラ揺れる。


「そ、そこまで言うなら、もうちょっと…」

と、私が言い終わる前に


「だめ。あんまり遅くなると危ないでしょ」

七瀬くんのストップが入ってしまった。



口には絶対出さないけど、出したら変態認定されるから絶対出さないけど、






……コウくんのことオモチカエリ シタイ。







あ、そうだ。

私クッキー作ってきたんだった。


「七瀬くん、クッキー作ってきたんだけどコウくんアレルギーとかって…」


「大丈夫だよ」


「クッキー?」


「うん、コウくんに作ってきたんだけど食べてくれるかな?」


「たべる…!ありがとうっ」


「どういたしまして。はい、どうぞ」




クッキーが入った袋を渡せば、それをぎゅっと握りしめてふにゃりと笑う。

あ、やっぱり七瀬くんと兄弟なんだなあ。

笑った顔がそっくり。





「こなお姉ちゃん、…好き…!」


控えめに、ぎゅっと抱きついてきたコウくんのあまりの可愛さに一瞬くらりと眩暈がした。


「私もコウくん好き…!!!」

そう言ってぎゅっと抱きしめ返す。



こんな幸せなことがあっていいのだろうか!
天にも昇る気持ちというのはまさにこのこと!


ひとりでギュンギュンしていると



「はい、そこまで。コウ、俺橘さん送ってくるからばいばいしよう、な?」


七瀬くんがコウくんの頭を撫でる。


「……ばい、ばい……また、きてくれる?」

「もちろん!」



そして本当にコウくんとバイバイして
七瀬くんと2人で駅までの道を歩く。




「コウくん本当に可愛かった!!
今日会わせてくれてありがとう!もう幸せすぎて消えそう…」




七瀬くんが興奮気味の私を見てくつくつと笑うけれど、笑われたってなんだっていい!

今私は本当に幸せなのだから!





「また遊んでやってよ。人見知りのあいつがあそこまで人に懐くの珍しいからさ」


「うん!私でよければいつでも…!」






小さい頃から男子にはもてなくても、なぜか動物や子供にはモテモテだった私。


こんなところでそれが役立つなんて。