「今はいらない、かな」

「そっか。じゃあ食べたくなったら言って」

「うん」


そして、
私の頰に乗せていた手をゆっくりと目元に動かす。






「…泣いたでしょ」




きっと腫れているであろう私の目元を見て、悲しそうな表情をする彼に、私は笑いかけてこう言う。




「…久しぶりに熱出したから」

嘘じゃない。

本当に何年ぶり?ってくらい風邪ひいてなかったんだよ、私。

体は強い方なんだ。



「……」



でも私の言葉に、七瀬くんはなにも言わない。

沈黙が続き
ただただ、静寂な時間が流れていく。












そして何回目かの時計のカチッカチッという秒針を聞いた後、七瀬くんが静かに口を開いた。








「俺ね、本当に橘さんが大切なんだよね」

「….絶対泣かせたくないって思ってた」








その過去形の言葉に、七瀬くんは自分のせいで私が泣いたと思っているのではないかと焦る。


違う、七瀬くんのせいじゃないんだって。

行かないと言った七瀬くんを無理やり行かせたのは私。



だから違うんだって。


慌てて否定しようと思った、のだけれど
なんとも言えない表情で、私を見つめる彼の瞳に思わず引き込ませそうになり、…….言葉が出なかった。