「今日の課題終わった?」
この距離感とは裏腹に、七瀬くんはいたって普通に普通の会話をし始める。
私も一旦落ち着こうと思い、七瀬くんにバレないよう小さく息を吐いてから言葉を吐き出す。
「終わったよ」
「本当?よかったら確認しない?」
「うん、いいよ」
「よかった。俺今日当たるから心配で」
と困り気味に笑う七瀬くんだけど、何言ってんだ、七瀬くん頭いいじゃないか。
急に当てられても、余裕で答えちゃう人じゃないか。
と少し悪態をつきつつ、七瀬くんが鞄を持ってくる間に私も鞄の中から課題を引っ張り出す。
あ、よかった。なんとか落ち着けたかも。
そう安堵しようとした時
「そういえば、橘さんさっき俺のこと見てたでしょ」
「え!?」
その言葉に驚き、七瀬くんの方を見れば
頬杖をつきながらニヤニヤする彼が。
気づかれてた…!
「え、いや…!それは…」
あたふたする私を見て、クツクツと面白そうに笑う彼。
そして追い討ちをかけるように
「まあ、俺も橘さんの顔見たかったからお互い様だね」
「…っこ!」
この天然タラシ!!と叫びたかったのだけれど
「ん?」
と、本人は自分の発言をいたって気にしていない様子で、必死に言葉を飲み込んだ。
「なんでもない…」
「そっか。あ、橘さんこれあげる」
と言って、鞄の中から何かを取りだす彼。
「わ、お菓子山盛り…」
出されたのは大量のお菓子だった。
しかも私が好きなものばかり。
「これ私に?」
「うん。今更だけど、家来てくれた時にコウにクッキーくれたでしょ。そのお返し」
「こんなにいいの?」
「もちろん。あいつ凄い喜んでたからさ」
「本当?嬉しい」
「よかったらまた来てよ。
コウ橘さんのこと気に入ってるし」
「私でよければ!」
コウくんに気に入られているなんて初耳だけれど、会っていいのであれば、ぜひ会いたい。
むしろ飛んでいきたい。
あんなクッキーでよければ何百枚だって焼いちゃうよ!

