闇に溺れた天使にキスを。




「……白野、さん…」


彼に名前を呼ばれただけなのに、思わず肩がビクッと跳ねた。

なぜか指先も震えだす。


神田くんの刺青を見ただけ。
ただそれだけだというのに、どうしてこんなにも───

怖いと、思ってしまうの?


「……白野さ」
「ご、ごめんなさい…!」

私は勢いよく頭を下げて謝り、慌てて保健室を後にする。


見てはいけないものを、私は見てしまった。
これはきっと、神田くんが隠していることに違いない。

「どうして…」


あの和彫り。
あの深い傷痕。

一般人だと位置付けるのには難しい。


余計なことまで考えてしまう。
神田くんは、実は───

闇の世界で生きている人なんじゃないかって。


うまく言葉にはできないけれど、極道とか暴走族とか殺し屋とか。

私には全く関わりのない、遠くて深い闇の世界。
そんな世界が本当にあるのかと思っていたけれど。


その可能性を疑わずにはいられない。