特に頭に残る夢をみることはなく、ゆっくりと目を開ける。


「……ん」


頭がぼーっとし、全身がだるい。


「未央、起きた?」


ふと耳に届いたのはお兄ちゃんの声。

顔を上げるとそこにはお兄ちゃんが笑顔を浮かべ、私を見つめていた。



その時に感じた手足首の違和感。

さらに足がついている床は家のフローリングではなく、コンクリートで。


視界もいつもより暗い。
なんだか嫌な予感がした。


周りを見渡せば、神田くんや涼雅くんと二度行ったことのある廃工場の一階のような場所で。

ただ私の知る廃工場よりは狭く、シャッターが完全に閉められていた。


そのためか、錆びたにおいが鼻につく。


ここは家じゃない。
確かに家にいたはずなのに。

ドクドクと鼓動が加速していく中、ゆっくりと手元を確認すると───



「……っ!?」

ロープのようなもので、手首が縛られていた。


「未央、こんな乱暴なことしてごめんね」
「お、にいちゃ…」

「でも縛られてる未央もたまらなくかわいいね」


きっと足の違和感も勘違いなんかじゃない。
ロープが肌に当たっている感触がするからだ。


「お兄ちゃん、何して……」
「俺、ずっと前から知ってた」

「……え」
「未央や両親と血が繋がってないってこと」


私の頭を優しく撫でながら話すお兄ちゃんは至って冷静で。

この状況でその冷静さは逆に怖かった。


「だから疎外感があったけど未央だけは俺に心から笑いかけてくれて、必要としてくれて。

そんな未央のこと、すぐに“女”として見ていたよ」


嘘だと思いたくて、涙ぐみながら首を何度も横に振る。


「愛しい、触れたい、俺のものにしたい。
その気持ちが膨らむたび、抑えるのに必死で」


すると頭を撫でる手がおりていき、今度は頬を撫でてきた。


「未央が大人になるまで待とうと思ったけど、もういいよね」


その瞳は私を見つめながらうっとりとしている。

違う。
目の前にいるのはお兄ちゃんじゃない。

私の知るお兄ちゃんは、こんな人じゃないと。