「え、お兄ちゃん…」

「眠たいんだろ?そんな中で電話しても会話成り立たないだろうから」


そう言ってお兄ちゃんは私の肩を抱いた。

どうやら私に気遣っての言葉らしく、素直に甘えることにした。


それぐらい眠気に勝てず、頭がうまく働かなくなっていたのだ。

だからお兄ちゃんの様子にも何ひとつ引っかかることがなく───




「……もしもし、電話代わりました。
未央の兄です」

お兄ちゃんが私の頭を優しく撫でてくるため、気持ちいいと感じてより一層うとうとしてしまい、ゆっくりと目を閉じる。



「……よお、“神田拓哉”。
まさかこんな日が来るなんてな」


夢うつつの中、お兄ちゃんのいつもよりずっと低い声が耳に届いてきて。

きっともう夢の中なのだろうと勝手に解釈する私。



「まさかお前が、たったひとりの女に振り回される人間になるとは夢にも思わなかった」


今度はお兄ちゃんの指が私の頬に触れた気がした。
きっとこれも夢の中だろうと思い込み。


「……おやすみ、未央」
「う、ん……おやすみなさい…」


やけに遠くに聞こえるお兄ちゃんの声。


「残念だけど、俺の未央はお前なんかにやらないから。でもまあ、返して欲しけりゃ俺が未央を食べる前に来ることだな?」



この言葉を最後に、私の意識はそこで完全に途切れてしまった───