「……うーん」
「未央?どうした?」


もちろん部屋に行く気はなかったため、大人しくお兄ちゃんの隣に座りなおしたけれど───


今日は神田くんとのすれ違いがなくなり、幸せな気持ちになったからだろうか。

突然睡魔が襲ってきて。


「ちょっと眠たくて……疲れたのかな」
「疲れたのか?それならお兄ちゃんの肩貸してやるぞ!」


目をキラキラ輝かせながら私を見つめてくるお兄ちゃん。

けれどここは素直にお兄ちゃんの肩を借りようかなと思った。


「じゃ、ちょっとだけ寝るね…」


そう言って、お兄ちゃんの肩に頭を乗せようとしたその時。


私のスマホがポケットで振動して、思わずはっと目が覚める───

わけじゃなかったけれど。


ゆっくりとスマホを取り画面を確認すると、相手は神田くんからだった。


いきなりどうしたんだろうと思いつつ、頭が眠気でぼーっとするため、隣にお兄ちゃんがいるのに立ち上がろうとも思わずに電話をとった。

正直に言えば、立ち上がる気力がなかったのだ。



「……はい」
『っ、白野さん!?』


電話越しに聞こえる神田くんの声は焦っていて。


「どうしたの?」

一方の私はその焦りに驚くことなく、冷静に言葉を返している自分がいた。


変な感じ。
なんだか頭がふわふわしてきた。



『今家だよね!?
早くその場から逃げて!』

「……へ」

『なるべく遠くに逃げるんだ!
その場にいるのは龍崎(りゅうざき)だから…』


勝手に外に出るなと言っていたはずの神田くんが、今は外へ行けと言っている。

わけがわからなくて、頭が混乱する中。
どうしても危機感が抱けない。


だって隣にはお兄ちゃんがいるのだ。

焦る神田くんを不思議に思いつつ、安心してもらおうと口を開く。


「大丈夫だよ、今この場に龍崎って人はいなくて…」

その時。
突然耳に当てていたスマホが離れた。

正確には隣にいたお兄ちゃんがそのスマホをそっと取るようにして奪ったのだ。