「そうやって俺を喜ばせるのが得意だよね」
「本音だもん」
「本音が一番タチ悪い」
なんて言いながらも、目を細めて嬉しそうに笑うから神田くんの本心がわからない。
するとタイミングよく、電車が来るというアナウンスが流れた。
これからまた、満員電車に揺られる日々が始まるのだ。
一年の時は憂鬱だったけれど、今年は違う。
神田くんがいるというだけで明るい気持ちになれる。
「…あ、そういえば」
「どうしたの?」
電車に乗るなり、神田くんが何かを思い出したように口を開いた。
「俺、ちゃんと安静にしてたよ」
「……え?」
「怪我してから、落ち着くまで外に出てない。その代わりにコンピューターの操作はしてたけど…安静にしてたよ」
密着状態の中、神田くんにじっと見下ろされる。
その瞳は期待に満ちていて。
「ねぇ、一日俺の言うこと聞いてくれるのはいつ?」
悪い予感しかしない。
思わず一歩後ずさりたい気持ちになるけれど、ぎゅうぎゅう状態の満員電車のためそれができなかった。
「そ、そのうち…」
「あっ、そうやって引き延ばす気だ」
頬を突っついてくる彼の表情は幼く、キュンと胸が疼く。
「い、いつか必ず」
「んー、じゃあ俺が指定するね」
「えっと」
「今は少し忙しいから、落ち着いてから必ず泊まりで家に来てもらうからね」
どうやら神田くんはなんとしてでも、私に一日中言うことを聞かせたいらしく。
けれど今すぐに、ではなくて安心する私。