「神田、くん?」
「…どうしたの?」
けれどすぐ、彼は穏やかな表情へと変わる。
そのため、ほんの一瞬だった。
彼が“優しい”以外の感情を表に出したのは。
「あの、大丈…」
大丈夫?って、言おうとしたけれど。
それを遮るようにして、彼は私が背をつけている壁に手をついた。
これは、もしかして側から見れば───
壁ドン、というものになるのではないだろうか。
途端に頭が真っ白になり、何を言おうとしたか忘れてしまう。
「ごめんね、ちょっとの間だけ我慢してくれる?」
その言葉にも、頷くのが精いっぱい。
視界いっぱいに神田くんの姿が映る。
その上距離も近くて、少し動けば彼に触れてしまう位置だ。



