闇に溺れた天使にキスを。




「じゃ、じゃあシャツ、借ります」

やっぱりドキドキと胸の高鳴りがうるさい。
お兄ちゃんだと平気なのに。


「どうぞ」

緊張する私とは違い、神田くんは優しく笑っている。
けれどその笑顔には余裕が含まれており、私とは全然違う。


電車に揺られながら向かい合う私たちは、自然と見つめ合う形になった。

恥ずかしくて、目のやり場に困ってしまう。


その時、次の駅のホームに停車した…かと思うと。
反対側のドアから多くの人が中へ入ってきた。


その結果、人に押されてさらに端まで追いやられる私たち。


人が多いなと思い、なんとなく神田くんを見上げたのだけれど───


「……っ」

神田くんが一瞬、苦しそうに顔を歪めたのを私は見逃さなかった。