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何もすることができなくて、無力な自分を思い知らされて。
私を庇った神田くんは、深い傷を負ってしまった。
荒くなる息。
ひどくなる汗。
時折、苦しそうに顔を歪めつつ。
目を閉じては開ける、という動作を繰り返していた彼の姿が脳裏から離れない。
3日後。
スマホを確認するけれど、神田くんからは連絡がなくて。
ガチャンとスプーンがフローリングの上に落ちた音でハッと我に返る。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「悪い悪い、いやー力入んなくてよ」
実はこの間、お兄ちゃんが友達の家に遊びに行った時。
悪ふざけをした結果、手首の靭帯を損傷してしまったらしい。
そのため今は手首を固定するようにして包帯を巻いており、うまく動かないようだ。
だから今もスプーンも落としたようで、私が拾ってあげる。
「ありがとう、未央。ついでにこのスープを飲まさせてくれてもいいんだぞ」
「お皿ごとでいいなら…」
「嘘だって、わかった諦めるから!」
お兄ちゃんが怪我を負ったため、心配しているというのに。
そんな冗談を言うから、私も少し行動に移せばすぐ大人しくなった。
そして自分の席に座りなおしたところで、私もコーンスープを飲み始めるけれど。
───神田くん、大丈夫かな。
この3日間、神田くんのことばかり考えている。
スマホを確認しては落ち込んで、彼のことを考えて…の繰り返しだった。



