闇に溺れた天使にキスを。




どうしてそんな平気そうな顔してるの?
どうして血を止めようとしないの?


その時に思い出す、初めて神田くんの和彫りを見てしまった日のことを。


背中にあった切り傷。
あれも本人は平気だと言っていた。


「……涼雅、厳戒態勢だ」

電話の相手へと向けて、静かな声で話す神田くんだったけれど。

なぜだか私の耳にもはっきりと届いた。


ゾッとした。
今のこの状況に対しても、彼は冷静なことに。



「うん、白野さんは無事だよ。
……わかった、ありがとう」


数分も経たないうちに電話を切る彼。

それからスマホをおろしたところで私のほうを振り向いた。


「……ごめんね、白野さん。
巻き込んだ」

「……っ」


泣きそうになった。

私は無傷で、神田くんが深い傷を負っているのに、謝られてしまった。


「は、やく…神田く…」
「念のため目立たない場所に行こうか」


もういいから動かないで。

そのひと言すらまともに言えない。
ただ震える声、泣きそうになるのを我慢して。


神田くんの後ろをついていくことしかできない。


そんな彼とやってきたのは屋台で隠れており、緑が生い茂る場所で。

大きな木もあるため、その後ろに隠れるようにして身を置くことができた。


けれど───


「……っ」
「神田くん、汗が……」

ゆっくりを腰を下ろした神田くんとようやく目線を合わせることができ、初めて彼の顔を正面から見れる。


彼の額には尋常じゃないほどの汗が噴き出ており、やっぱり無理しているのだと思った。