「俺が変なのはもともとだよ」
「そ、そんなことないよ…」
少し不思議に思ったから言っただけなのに、本気で捉えてしまう神田くんに慌てて否定する。
「あ、そろそろ花火の時間かな」
その時ふと、神田くんが視線を上へと向けた。
きっと暗い夜空に上がる花火を見ようと思ったのだろう。
さっきは5分前だったけれどそろそろかなと思い、時計を確認するためスマホを取り出そうとしたその時。
「……っ、白野さん!」
「え…」
神田くんの焦ったような声が耳に届き、思わず顔を上げる。
すると神田くんは目を見張り、声同様焦っていて───
次の瞬間、なぜかこの人混みの中で神田くんに抱きしめられた。
きつく、私を完璧に包み込むようにして。
「か、神田くん…?」
突然のことでうまく状況が理解できない中、確かに神田くんに抱きしめられていて。
彼の片手が、まるで離れまいとでも言いたげにきつく私の背中にまわされていた。
自然と鼓動が速まる。
「あの、神田くんここ…」
「そうだね。でも、もう少しだけ我慢して」
けれど彼の声が、ひどく静かで落ち着いており。
少しいつもと違うことに気がついた。
いつもは優しくどこか甘さのある声音のため、今の神田くんには違和感があった。
「えっと、神田く…」
こんな人混みの中、神田くんに抱きしめられているため周りからの視線が感じる。
けれど彼の様子が少し変だと思った時にはもう遅くて───
「……っ、きゃああ!!と、と、通り魔!!!」
ドクンと、心臓が嫌な音を立てる。
すぐ近くで女の人の悲鳴が聞こえたからだ。



