「俺の話、聞いてた?」
いつもよりさらに低くトーンを落とした声に、思わず肩が震えた。
「えっ、と…」
「勝手にどこか行こうとしない。次破ったら祭りはやめて行き先変更するよ」
そこまで言われてようやく思い出した。
すっかり忘れていた、彼との約束。
いちご飴に意識が向いて彼から離れようとしてしまったのだ。
「ご、ごめんなさい…」
「本当、危なっかしくて困る」
ため息をつかれながらも、何故だか頭を撫でられる。
「神田くん…?」
「怒りたいけど白野さんがかわいすぎて怒れない」
「へ…!?」
やれやれ、とでも言いたげな顔をされるけれど、少し意味がわからなくて首を横に傾ける。
「あんなにも白野さんを無邪気な顔にさせるいちご飴が羨ましい」
「あ、あの…」
「どうしたら俺にもあんな無邪気な姿見せてくれる?」
答えにくい質問をされ、言葉を返せなくなる。
いったい神田くんは何を考えているのだろう。
「まあいいや、いちご飴買いに行こう」
「ほんと…!?」
てっきりいちご飴は買いに行けないと思っていたから、嬉しくなる。
「ほら、その笑顔を俺にも向けてほしいの」
「え?」
少し不服そうな顔をする神田くん。
何やら気に入らないことがあったかのようで。
どうしても理解できない中、私たちはいちご飴の売っている屋台に並んだ。
「白野さんのいろんな表情、見せてほしいんだよ」
「私の、色々な表情……」
「白野さんの全部を知りたい」
今の神田くんは少しわがままにも見える。



