闇に溺れた天使にキスを。






それは毎朝乗っている満員電車並みなんじゃないかと思うほどの人の多さだった。


たった今、花火の上がる夏祭り会場に来たのだけれど。

人の多さに圧倒されている私。


もう何年も行っていないため、こんなに人が多かったのかと驚いたのだ。


「白野さん、勝手にどこかに行ったらダメだよ」
「う、うん…」


こんなにも人が多い中、ひとりでどこかに行けばすぐ見失ってしまうことだろう。

とはいえ神田くんの存在感があれば、すぐ見つかる気もするのだけれど。


「見て、あの人」
「素敵な人だね。声かけたいくらい」


だって今のこの時点で周りからの視線が彼に集まっている。

特に女の人からの視線が熱い。


「でも一緒にいる子は彼女?」
「えー、違うでしょ。兄妹なんじゃない?」


多分その言い方に嫌味はない。
本気で思っているのだろう。

どうしてだ。

どうしてお兄ちゃんといると恋人だって誤解されるのに、神田くんなら逆に兄妹だと誤解されるのだ。


おかしい以上に傷ついてしまう。

確かに神田くんは私なんかよりもずっと大人びているし、高校生には見えないけれど……せめて彼女には見られたかったなって。


「妹なら声かけれるくない?」
「え、どうする?かけちゃう?」


だんだんと女の人の声が近くなり。
こっちに向かっているのがわかる。


「……白野さん、行こう」
「へ…」


するとその時、神田くんが私の腰に手をまわして歩き始めた。

そのため自然と女の人との距離が遠ざかり。