「あ、あの…遅くなってごめんなさい、待った…よね」
駅前にある時計を確認すると、ちょうど待ち合わせ時間を指していて。
慌てて謝るけれど、彼からの返答がない。
「神田くん…?」
怒ってる……わけではなさそうだ。
ロボットが電源を切られてしまい、停止しているような固まり方をしていた。
「神田くん、聞こえてますか」
あまりにも反応を示してくれないから、神田くんの腕を人差し指で突っついたその時。
「……わっ」
突然腰に手をまわされ、そのまま抱き寄せられてしまう。
今度は彼と密着状態になった私の思考回路が停止した。
「……やっぱり意地でも迎えに行けば良かった」
「え…」
ようやく口を開いてくれたかと思えば、何やら後悔したように話し始める彼。
「家出てから誰とも会わなかった?」
「うん、誰とも会わなかったよ」
たまに友達と会ったりするが、今日は誰とも会わなかった。
「通りすがりの人たちもだよ?」
「と、通りすがりの…?それは何人かとすれ違ったけど…」
「ほら、やっぱり」
どうやら見知らぬ人とすれ違ったこともダメだったようで、神田くんがため息をつきながら抱きしめる力を強めてきた。
「神田くん、ここ駅前…」
先ほどから視線を感じ、何やらヒソヒソと話し声が聞こえることに彼は気づいていないのだろうか。
「ねぇ、どうして人とすれ違って来たの」
「そ、そんなこと言われても…」
少し怒り口調。
その上内容は理不尽である。
「白野さんのかわいさを周りに知らしめてどうするの?」
「そ、んなの…私がかわいいとかありえないもん」
神田くんの目には、何かのフィルターがかかっているに決まっている。
「もーダメだ、嫉妬だよ嫉妬。白野さんをこのままどこかに閉じ込めてやりたい」
「か、神田くんが言ったら本気に聞こえるからやだ…」
「結構本気だからね」
結構って言われても、度合いがわからず反応に困ってしまう。



