闇に溺れた天使にキスを。




「白野さんが俺をおかしくさせているって自覚、ある?」

ゆっくりだったけれど、確実におりていく彼の指。
思わず声が出そうになり、手で自分の口元を覆う。


「……何してるの。
白野さんは俺の気に入らないことばかりする」


少し不満気な声。
いつも以上に意地悪で、厳しい神田くん。


そんなの無理だ。
ただでさえ恥ずかしさでいっぱいなのだ。

涙が目に浮かび、首を何度も横に振る。


「これくらいで照れていたら、この先耐えられないよ?」


言い返したい。
『そんなの無理だ』って。

けれど今はただ、恥ずかしさを抑えることしかできなかった。



「……もー、これって俺が我慢しないといけないの?
生殺し?」


涙が流れ落ちたその時。
神田くんがため息をつきながらも、手の動きを止めてくれた。


胸元まできていたその手は、いったい何をするつもりだったんだろう、なんてそこまで深く考える余裕はない。


「……っ、はぁ…はぁ」

特にキスをされたわけでもないのに、なぜだか酸素が欲しくなり。

息がしにくくなる。


「ゆっくり、深呼吸して。
そんなに焦って息をしようとしない」

優しい声が、私を指導する。


「口元覆う手も離そうね。
少し……やりすぎた、のかな」

本人はまったく先ほどまでの行為に“やりすぎた”という自覚がないらしく。


私ばかりがかき乱され、何もかも神田くんの思い通りだ。


「今だけは理性なんてもの、白野さんからなくなればいいのに」


やっぱり不満気に話す神田くん。

冗談か本気かなんて、それすらわからないほど頭の回転が遅くなっている私。