「そっか。母さんの話、聞いたんだね」
「あの…それ、は」
「隠さなくていいよ。言うタイミングがわからなくて、俺からは話さないだろうから」
どうやら話してほしくなかったわけではないようで、ほっと胸をなでおろす。
「でも、うん…良かった」
「良かった…?」
なぜか神田くんも安心したように笑う。
「同情って気持ちだけで、白野さんが今この場にいなくて」
そしてもう一度、私を抱き寄せた。
彼の腕の中は温かくて安心感が湧く。
「だって……好き、だから。
神田くんのことが」
同情の気持ちだけではきっと彼のそばにはいられない。
今はもう、神田くんじゃないとダメだって気持ちのほうがずっと強くて。
「…白野さんって、本当に困る」
「え…」
神田くんの口から“困る”という言葉が出てきて、一瞬不安になる。
面倒くさがられたかもしれないと思ったからだ。
「俺って結構欲しがりだから。
そんなかわいいこと言われたら、止められなくなる」
ふと、空気が変わった気がした。
暗く重い空気が嘘のように消えて。
「欲情させた責任とってくれますか」
「……っ」
本当にずるい言い方。
首を傾げ、優しく聞いてくるくせに拒否権なんかきっと与えてくれない。
「と、とりません……」
もちろん結果はわかっているけれど、頑張って粘る。
「えー、ひどいなぁ」
余裕そうな笑み。
やっぱり私は逃げられそうにない。
「とってくれないなら、答えはひとつしかないね」
「……やだもん」
「押し付ければいいんだよ」
私の後頭部に手をまわし、ぐっと引き寄せられる。
気付いた時にはもう、強引に唇を塞がれていた。



