「で、でも、涼雅くんはそれでいいの…?」
先ほどから涼雅くんに任せる趣旨の発言をしている気がする。
「涼雅も特殊だから。
ああ見えて女のことが嫌いなんだよ」
「どうして…?」
私と話す限り、女の人が嫌いというオーラなどは出ていない気がする。
そもそも私は女として見られていないのだろうけれど。
「柔らかく言えば、母親に乱暴されていたんだ。それで涼雅は仕返しするかのように、逆に女を乱暴に扱ってる」
私の知らなかった涼雅くんの過去が語られる。
神田くんだけでなく、涼雅くんもまた重いものを抱えていた。
「もちろん騙して利用するために最後の最後までそれを隠すけど、そんなことしたって何も意味ないのに。本人に返さないと」
ゾクッとした。
不思議そうな顔をする神田くんだったけれど。
その“本人”とは涼雅くんの母親だけでなく、神田くんのお母さんを殺した相手にも言っているような気がして。
だって彼のお母さんを殺した犯人は、まだこの世界で悠々と生きている可能性だって高い。
神田くんも涼雅くんも、私なんかが容易に想像できない、そんな暗い闇の中で生きている。
「……父さんから、何か聞いた?」
私の反応を見て、何か感づいたのだろうか。
不意にそんなことを聞いてきた。
「あ、いや…」
何と答えるのが正しいのだろうか。
それがわからなくて、余計にしどろもどろしてしまう私。
「母さんのこと、とか」
ピンポイントな質問。
本当は全部わかっているんじゃないかと思うほど。



