「だって白野さん、俺のことで泣いてくれてる。女の嫉妬って面倒だと思っていたけど、白野さんだとこんなにも心地がいいんだ」
ようやく抱きしめる力を緩めたかと思うと、今度は額をくっつけられる。
「……っ」
そんな嬉しそうに言って、話をうまいこと変えるつもりなのだろうか。
「変に誤魔化すのも嫌だから本当のこと言うけど、白野さんの言った通りだよ。俺は女の扱いに慣れることも武器にするため、華さんに色々教えてもらってた」
自分から聞いておきながら、神田くんの口から『華さん』という名前が出てくると胸がぎゅっと締め付けられるように苦しくなった。
「でも白野さんと関わりを持つようになってから、“そういうこと”は涼雅に任せるようになったんだ」
これもまた事実だよって、話してくれるけれど。
「“そういうこと”って、女の人と深い関わりを持つこと……?」
「うん、そうだよ」
「……っ、やだ……」
咄嗟に出たのは素直な感情。
嫌だ、そんなの。
「やだよ、絶対嫌だ」
泣きながら神田くんに訴える。
こんなに悲しくなるくらい、私は彼のことを好きになっていて。
そんな私を見て彼は小さく笑い、そっと頭を撫でられる。
子供のみたいにあやされているようだ。
「今までは“そういうこと”をするのに特に抵抗はなかったけど、白野さんの純粋さに触れたら俺も嫌だなって思うようになったよ」
「……今までは抵抗なかったの…」
「うーん、その言い方はまずかったかなぁ…なんて言えばいいんだろう、本当にその時のことを思い出そうとしても曖昧っていうか、ほとんど覚えてない。なんとも思っていなかったから」
少し難しそうな顔をして話す神田くん。
どうやら本当に感情ひとつ抱かなかったようだ。



