闇に溺れた天使にキスを。




ぶわっと顔が熱くなる。
穴があったら入りたい、その場でうずくまりたい。


「……色気、ね。まさか白野さんにそんなこと言われるなんて思いもしなかったな」


ほら。
彼はやっぱり恥ずかしがる私に、追い打ちをかけたがる。


「……っ、冗談だもん」

嘘でもそう言わないと、耐えられない。
今すぐ逃げ出したいくらいなのに。


「そっか、冗談だよね。
でも俺は、今の白野さんの姿が色っぽいと思うなぁ。

手を出したくなるくらい」


机に向き合い、パソコンを開いて座っていた彼が立ち上がった。

そしてゆっくりと私に近づいてくる。


もちろん逃げるつもりはなかったけれど、なんだか怖くなって閉めたドアにピタリと背中をくっつけた。


どこか危険な彼の表情。
獲物を見つけた肉食の動物みたいだ。


「あ、あの、神田く…」
「俺の上着、ちゃんと羽織っててくれたんだね」

すぐ目の前までやってきたかと思うと、神田くんはそっと私の肩にかけられたままの上着をとった。


クーラーが効いていたため、肩が一瞬にしてヒヤリと冷たくなった。


「こんな大胆な格好させられて、抵抗しなかったの?」


だって、できなかった。
抵抗できる余裕なんてなかったのだ。

不意に思い出す宮橋先生の言葉。
ここのきて、様々な思いが駆け巡り、不安に襲われる。


「こんな姿見せられたら俺、耐えられない。今の白野さんを絶対誰にも見せなくないな」


私の背後にある扉に片手をついて、私をじっと見つめる彼が近づいてきた。

キスされるのだと思い、受け入れようと目を閉じた瞬間───


『拓哉さんに優しく触れられたのも、キスも。それ以上のことだって全部、私が初めてなの。この意味わかる?』


宮橋先生の言葉が脳内再生されて。


「……っ」

気づけば神田くんから顔を背けるように俯き、それを拒否していた。