「いいや、君は悪くないよ」
けれど組長は私を安心させるようにして笑い、そう言ってくれた。
「……それにしても、拓哉と何かあったのかな?」
かと思えば、突然質問されてしまい。
それもできれば触れて欲しくなかった質問だ。
首を横に振り、否定する。
何かあったわけではない。
ただ自分が不安になって、怖くなっているだけ。
「もしかして、華に何か言われた?」
宮橋先生の名前が出てきて、ギクリとしてしまう。
これじゃあ認めてしまっているようなものだ。
「そうか……でも嫉妬で人は変わるからね。
勢いで“事実じゃないこと”を言ってしまう場合だってある。
心配なら拓哉本人に聞いて確認すればいいよ。
そしたらすぐ解決することだろう」
にこやかな表情で話す組長のおかげで、少しだけ心に余裕ができた気がした。
それでも宮橋先生の言葉が全部、嘘には思えなくて。
まだ心が重い。
けれど組長の言う通り、本人や誰かに聞かなければ解決しない。
「そこまで不安になる必要はないよ、拓哉は君が大好きだから。本当に今の拓哉の姿には驚いている」
ふと、静かな空気へと変わった気がした。
にこやかだったはずの組長から笑顔が消える。
けれど今度はまた、切なそうな表情。
「この“神田組”が、周りから一番恐れられているのは何だと思う?」
「え……」
唐突な質問に対処できず、何も答えられない私。
一番恐れられているのは、トップに立つ組長じゃないの───?



