だって宮橋先生と約束したから。
保健室で約束したことを思い出そうとしたその時───
『今日、組長はあなたを家に呼んだ。だから拓哉さんにも会うでしょう?その時に言えばいいの』
思い出したくない宮橋先生の言葉が、頭をよぎる。
途端に不安に襲われ、ぎゅっと神田くんのシャツを強く掴んでしまった。
「……白野さん?」
忘れていた。
いつも通りの優しい彼に私は安心感を抱き、このように抱きついてしまったのだ。
そんな彼は、私のことをなんとも思っていないかもしれないのに。
涼雅くんの言葉を信じたい、勘違いだと信じたいけれど。
宮橋先生の言葉が嘘だという確証もない。
「あの、いや…ごめんなさい」
思わず謝り、神田くんから離れてしまう。
一度マイナスに考えてしまえば、容易に神田くんに触れることなんてできない。
もし、私と似たタイプの女の人と関係を持ったことがあるとしたら。
重ねられるかもしれないし、面倒くさがられる恐れだってある。
嫌われたくないと、素直に思った。
「白野さん、どうし…」
「さて、俺はこれからその子と話があるから、拓哉は部屋に行ってもらおうかな」
絶対、神田くんに異変を気づかれたけれど。
タイミングよく組長が口を開いたため、それ以上追求されることはなくて安心する。
「……俺もここにいる」
「それはダメだ」
「父さんがまた白野さんに何するかわからないから」
「もう怖がらせるようなことはしない。それに拓哉だって、まだ仕事が残っているだろう?
だから部屋に行きなさい、話が終われば拓哉の部屋にこの子を行かせるから」
最初はここにいると言った神田くんだったけれど、最終的には組長の言葉に従った。



