「───何、しているんですか」
低く冷たい声が耳に届く。
普段なら怖いと思ってしまうだろうけれど。
その声の主が、神田くんだったから───
「……っ、かん、だく…」
力を振り絞り、組長から離れる。
体にうまく力が入らないため、ふらつきながら開けられた襖の前に立つ、神田くんへと飛び込んだ。
いつもよく見る白いシャツを着た制服姿ではなく、黒いシャツにグレーのネクタイといった服装の神田くん。
この間のスーツ姿同様、まるで高校生には見えなくて。
白いシャツだとさわやかな雰囲気の彼が、今は悪い人に見える。
けれど私にしたらそんな彼は安心できる存在のため。迷わず抱きつく。
すると彼は何も言わずに片方の手を私の背中にまわし、抱きしめ返してくれた。
「組長、この子に何をしたんですか」
ゆっくりと口を開き、敬語を使う彼の声音は落ち着いていて。
気のせいだろうけれど、怒っているようにも見えた。
「まあとりあえず落ち着こうか拓哉。ちょっと意地悪するつもりが、反応があまりにもかわいくて止まらなかったんだよなぁ」
すると驚いたことに、組長が明るい声を出した。
思わず組長のほうを向けば、表情までも明るく陽気な人へと変わっていて。
さっきまでの威圧が嘘のように感じられなくなった。
そう、例えるなら今の組長は“組長”ではなく───
“神田くんのお父さん”の姿だった。



