「笑い方の癖も全部似ている。
拓哉を見ると、妻を思い出すよ」
少し切なげな表情をする組長を見て、マイナスなことを考えてしまう。
もしかして、神田くんのお母さんは───
「さて、緊張が解けただろうから本題に入ろうか」
すっかり気が抜けていた私を、組長は見逃さなかった。
ガラッと話が変わる。
組長の切なげな表情も、全部見間違いじゃないかと思ったほど切り替えが早かった。
“本題”という言葉に嫌な予感がする。
「本当は拓哉の話をしたかったんだけどね、その前に…」
その時。
組長が音ひとつ立てずに、スッと立ち上がった。
それから私のそばまでやってきて、屈む動作をする。
目の前にやってくる組長の黒い瞳に捕らえられたかのようにして、動けなくなってしまう。
もう逃げるタイミングを失ってしまった。
「今日は俺に会うって、わかっていた?」
その質問には絶対答えないといけない。
答えなければ命が危ないと、本能が言っているような気がして。
宮橋先生から伝えられていたため、一度だけ頷いた。
「そうか、わかっていたのか…それなのに、こんな格好できたんだね」
組長が手を伸ばし、私の肩にそっと触れた。
夏の暑いこの時期なのに組長の手はヒヤリと冷たく、肩がビクッと跳ねる。
こんな、格好───?
「すごく大胆な子だね。計算高い子なのかな?拓哉がいるのに他の男の前でそんな格好して、誘われているようにしか見えない」
組長が悪そうな笑みを浮かべ、顔を近づけられる。



