闇に溺れた天使にキスを。




静かになる部屋。
息の音すら相手に聞こえてしまうような気がする。


「立ちっぱなしも疲れるだろうし、とりあえず座ろうか」

あくまで気遣いの言葉なのはわかっているけれど。
なぜか“従わないといけない”と思ってしまう。

数回頷き、私は組長とテーブル越しに向かい合って座った。


「失礼、します…」

座るまでは良かったけれど、今度は組長のほうを見れなくなる。


そのため視線を下げ、俯くことしかできない。


「……そんな怖がる必要はないよ。
そこまで怖がられると逆に申し訳なくなる」


怖がったらダメだと私自身わかっている。

それなのに目の前にいる人物に圧倒され、恐れてしまう自分がいて。


「うーん、困ったなぁ」

どうしよう。
本気で困らせてしまっている。


「あ、あのっ……」

やっとの思いで顔を上げれば、組長は笑みを浮かべた。
優しい笑み。


ただ、神田くんと似ているとは思わなくて。

穏やかな話し方は似ているけれど、顔のパーツや癖などはあまり重ならない気がした。


「……拓哉と似ていないだろう?」


どきりとした。
自分の心を見透かされて、驚いたからだ。

本当に心を読み取る能力があるんじゃないかと思ってしまうほど。


「いや、あの…」

言葉では詰まってしまう代わりに、首を縦に動かして頷く。


「拓哉は母親似なんだ。俺の妻は自慢になるほど別嬪でな。まさに妻の男バージョンが拓哉だな」


突如始まる家族の話。
一気に体の力が抜けた気がした。