闇に溺れた天使にキスを。




そして腰掛けている男の人が顔を上げ───


目が合ったその時。
全身が凍ったかのように硬直し、動けなくなる。

今までにないほどの危機感を抱いた。
この人は危険だと。


決して睨まれているわけではない。
穏やかな表情を浮かべているだけだったけれど。

組長と呼ばれる人を纏う雰囲気が、明らかに今までに会った人とは違う。


思わず足がすくんでしまうほど圧があった。


どうしてこんなにも怖いと感じるのか。
わからなくて理由を探したら、すぐに見つかった。


その瞳に輝きがない、と。
生気を感じられない。


大げさかもしれないけれど、いつ死んでもおかしくないと。

生きることをどこか諦めているようにも見える、その瞳は深く真っ黒で怖い。


「君が白野未央さん?」

その声に、ビクッと体が震える。

神田くんと同じように柔らかな口調だけれど、やっぱり圧を感じた。


「あ……えっと…」

うまく声が出ない。
手が震えてしまい、思わずぎゅっと強く握った。


「組長、すいません。
白野はすぐ緊張するやつなんで」

「ああ、わかっているよ。
だからみんな、席を外してもらっていいかな?」


疑問形だったけれど、命令しているように聞こえるような言い方。

涼雅くんを含め、その場にいた全員がすぐ部屋を後にする。


「怖がる必要はねぇよ」


最後に涼雅くんはそれだけ言い残し、部屋を出て行って───


私は組長とふたりきりになってしまう。