闇に溺れた天使にキスを。




「そんなこと言われても…」

「落ち着け。周りが何言おうが、お前は拓哉の女だ。
それは事実だろ」

「それが嘘なんだもん」

「嘘じゃねぇよ。拓哉があんな嬉しそうな顔して報告してきたんだから」


真剣な表情の涼雅くんは、慰めるために言っているわけではなさそうで。

一瞬ドキッとしてしまう。
神田くんが嬉しそうに…?


「ほ、本当…?」
「俺が言うんだから当たり前だろ」


本当だとしたら、それはどうして?
それともわざと嬉しそうな演技をして涼雅くんに報告したの?

宮橋先生と涼雅くんの言葉が脳内を駆け巡り、さらに混乱を招いてしまう。


「とりあえずこの話は後で聞くから。多分お前の誤解だろうけど、その前に組長が待ってるから行くぞ」


そう言って涼雅くんが立ち止まった場所は、4枚立の襖が最後まで閉められているところで。

襖の前にもふたり、男の人たちが黒服姿で立っていた。


この中に、組長がいる。
そしてその組長は───


神田くんのお父さんでもある、と。


ここにきて緊張してしまう。
さっきの話も本当はもっとちゃんと聞きたいのに。

私は誤解しているの?


わからない。
うまく頭の中が整理できず。


結局は神田くん本人に聞かないとわからないことなのかもしれない。


「……組長、雪夜です」


その時、涼雅くんが襖越しに組長のことを呼んだ。
それから数秒ほど待てば、中から襖を開けられる。

突然のことで心の準備ができておらず、緊張しながら中を覗けば───


金色が目立つ黒い和服を着る男の人がひとり、部屋の中心にある大きなテーブル近くに腰掛けており。

護衛の役目があるのだろうか、その人以外にも黒服姿の男の人が四方向に立っていた。