「厳しい。一回だけかぁ」
「じゃあもう帰る…」

もちろん帰るつもりはないけれど。
時間が許す限り、彼と一緒にいたい。


「ほら、そんなこと言わないで。
白野さんとの時間が俺の癒しなんだから」

「癒し……」
「白野さんといると、頑張ろうって思える」


そんなの、私なんか神田くんと会えるんだと考えただけでも、すごく楽しみで自然と元気になれる。


「私も、だよ。
神田くんと会えるの、すごく楽しみにしてた」


楽しみで、頬が緩んでしまうくらい。


「……っ、すぐそうやって俺を喜ばせる」


喜ばせようとしたつもりはなくて。
ただ、本心を言葉にしただけ。

けれどそれが彼を喜ばせたらしく、なんだか嬉しくなった。


「そんなかわいく笑えば許されると思って」

怒っている様子はなく、穏やかな口調で話す彼は、私の頬を軽くつねる。


「……いたい」

まったく痛くないけれど、反射的にそう言ってしまう私。


ああ、幸せだなって。
温かな感情が胸いっぱいに広がった。


「えへへ…」

自然と頬が緩む。
すると彼は、そんな私から視線を外した。


「神田くん?」
「……だからそんな顔しない」

「え?」
「キスしたくなるよ、いいの?」


私を見つめる彼は、また少し余裕がないように思えて。
さっきのキスを思い出した私は、顔が熱くなる。


「……っ、ダメ」

慌てて首を横に振った。

もう一度あんなにも甘いキスをされたら、本気で心臓が壊れてしまいそうで。


「じゃあ今度こそ、ノートをどうぞ」


少し俯いて、熱くなる顔を隠しながら、今度こそノートを神田くんに渡した。


「ありがとう」

彼はそれを受け取り、お礼を言う。

そんな今の神田くんも自然に思えて、嬉しくなった私は同じようにして彼に笑い返した。